某所で新月予報を出している「星見当番」の裏日記。裏当番&裏テントチームが執筆を担当


by ura_hoshimi

お煙草盆でズームイン!

【裏当番・後半少しお針当番】

今日の表題を見て笑った人は、きっと森茉莉の愛読者。

森茉莉の連載エッセイ『ドッキリチャンネル』の中に
「ズームイン!!朝!」に出ている(当時)徳光和夫の顔を
こきおろして「お千代、お花の顔」と評したくだりがある。

お千代・お花とは何か、ということについては
裏当番がとやかく説明するより森茉莉本人の言葉を
見た方がいいので、以下、引用。前半は徳光和夫ではなく
久米宏の顔についてなのだが、そこから引用しないと
面白くないので、長いのを構わず抜き出してみる。

(なお、元の文は改行なしで延々と続くのだが、
横書きでそのままだと見づらいので、適当なところで
裏当番が改行を入れた)

ズームイン!!朝!の徳光和夫と、木曜のベストテンに
黒柳徹子と出る人物とはライバル視されていてそれぞれ贔屓が
あるらしいが、私は断然久米宏に軍配を上げる。
贔屓の黒柳徹子の言葉だが久米宏の顔は額だけがいいのではない。
額から先に出来たような顔だが額以外の造作も額にぴったり嵌っている。
黒柳徹子と調子を合せるのも大変なことだ。

ズームインの徳光和夫の方は顔のことは言ってはいけないと思うが
お千代、お花の顔(昔の小学校の読本に出て来た
耳の前にお河童位の長さの髪を切り下げ、あとはひっつめて
頂辺(てっぺん)にお煙草盆のようなものを
のっけていて
母親が「お千代や、魚屋が来たから
このお皿を持って行ってお刺身を作って貰っておいで」
「はいお母様」のお千代の顔。丸谷才一もこの顔だ
つまりいやな顔でいやな腕を振り廻して
「ズーム、イン」とわめかれると朝の気分がこわれるのだ。


強調した「お煙草盆のようなものをのっけていて」という箇所。
これ、当番は今の今まで森茉莉一流の強烈な比喩だと思っていた。

昭和生まれの当番はそもそも「お煙草盆」自体を
間近に見たことがない。これを初めて読んだ頃は
「お盆といえば丸いもの」と思っていたので、頭のてっぺんに
円盤状のものをのっけた女の子を想像して混乱した。

後になって、煙草盆は丸ではなく四角いものだと知ったが
(参考→)知って更に混乱してしまった。

頭の上に円盤がのっているのも変だが、こんな取っ手つきの
長方形のお盆そっくりに髪の毛を結んで頭にのっけるのなんて
どう考えても変だ。しかもそれが小さい女の子の髪形なのだ。
頭の上に帆船のっけてたロココ時代の貴婦人もびっくりである。

本当にこんな髪型の子供がいたとは思えない。
そもそも髪の毛でそんな形を作れるとも思えない。
どうしても「お煙草盆ヘアーのお千代お花」が
イメージできないので、裏当番は仕方なく
「しんしゅーいち♪しんしゅーいち♪おみおつけ♪」
って歌うお味噌のCMに出てくる昔の田舎の女の子
(参考→)を思い浮かべ、そこに徳光の顔を貼り付けて
満足することにした。

(初めて知ったが、「しんしゅういち」は「信州一」ではなく
「神州一」なのであるらしい。そしてあのCMの女の子は
「み子ちゃん」という名前らしい。お味噌の「み」なら、
漢字で書いたら「味子ちゃん」なんだろうか。)

ところがだ。
先週、仕事の休憩時間にネットで昔の髪型を検索していたら
その名も「煙草盆」という少女の髪型が出てきたのだ。
明治時代によく結われた、8歳から12歳くらいまでの
女児の髪型だという。時代も年齢も、森茉莉が言う
「お煙草盆のようなのをのっけているお千代お花」と
ぴったり合うではないか。

「煙草盆」なる髪形を解説したページはこちら
ありがたいことにイラストつきだ。

もともとは、いわゆる「姫カット」の正式名称というか
伝統的には何て呼ぶのがいいのか、を知りたくて
調べているうちに見つけた。どうやらあれは
「鬢そぎ(びんそぎ)」と呼ぶらしい。
なるほど鬢(耳の横の毛)を一部削ぐから鬢そぎね。

「煙草盆」のイラストを見ながら
どうやったらこの形が作れるのか考えてみた。
後頭部の中央に分け目がある。前髪は別にして
後ろ側は現代で言うところの「ツーテール」が
ベースらしい。

まずは後頭部の高い位置でツーテールに結び、
次にそれぞれの毛束を互いに横に渡すようにして
余分を折り返し、納豆を包んでるわらづとみたいに
両端をくくる。この、裏当番には「わら納豆」に見える部分を
煙草盆の上部に水平に渡っている取っ手部分に見立てて
名づけたらしい。

裏当番の想像した手順で、本当に「煙草盆」になるかどうか
手持ちの人形でためしてみたくなった。お針当番を呼び出し、
実験開始。モデルになるのは久々の…

モデル「…はっ(悪寒)!」

c0054904_1945066.jpg

「ええと…お千代や。」
「…はい、お母様っ(怒)。」

久々に箱から出してもらえたと思ったら
こんなことのモデルにされていたくお怒りである。
だって、黒髪長髪で森茉莉が書くとおり
「耳の前でお河童くらいの長さの髪を切り下」げている、
つまり姫カットで、さらに都合よく着物姿の子というのが
ウチには彼女だけなのだから仕方がない。

人形の髪と人間の髪では、頭の大きさに対する
髪の太さの比率が違うので、「煙草盆」部分が
見本のイラストよりも太くなってしまった。
ゴムカタンで結髪、結び目をリボンで隠して撮影。

毛先も隠しきれていないし、そもそもアップ植毛でも
ツーテール植毛でもない子をむりやり結い上げたので
後ろや上からはとても写せないような惨状である。

c0054904_19501198.jpg

「乙女の命、わが至宝の黒髪になんたる狼藉。
お針当番と違って私たちの髪はデリケートなのに、
癖がついたらどうしてくれる。ぶつぶつ。」

すいませんすいません、これ終わったらすぐ解いて
癖がついてたら直しますから。ええと、あれです、
徳光和夫なんかよりずっと美少女ですよ。

「…かみあらうおゆ(怒り三倍増)」

はいお嬢様っ。

この髪型の「お煙草盆」部分。
裏当番には煙草盆の取っ手じゃなくて
どうしてもわらづと納豆に見えるのであるが。
裏当番が森茉莉だったら(どういう状況だそれは)
「頭にわらづと納豆のようなものをのっけていて」
って書くなあ。

しかし納豆では、あの「お煙草盆のようなものを
のっけていて」ほどのおかしみは出ないのである。
あれは煙草盆を知らない戦後生まれの人間をも
勢いで笑わせるだけの力がある。

明治生まれの森茉莉にとっては「煙草盆」は
身近な日用品だったろうし(たしか母親の志計さんか
母方のお祖母さんが煙管で煙草を吸っていたという
文章があったと思う)、たぶん髪型の「煙草盆」も
実際に見て知っていただろう。庶民の髪型のようなので、
お嬢様育ちの森茉莉自身はこの髪型にした経験が
ないかもしれないが。

ところでこの「煙草盆」なるネーミング。
当時この髪型が流行っていたのはいいとして、
本当に一般の人がこの髪型のことを「煙草盆」と
呼んでいたんだろうか。だとしたら、一体誰が
小さな女の子の髪型にそんな渋い名前を
つけたのだろう。

髪結いさんの間での符丁のような呼び名だったんだろうか。
この髪型にしてもらいたい時は「お煙草盆にしてください」と言えば
「はい煙草盆ね」とあっさり通じたんだろうか。

それとも明治時代のヘアカタログ(まさか写真集でも
ないだろうが、当時でも図解されたものが髪結床には
置いてあったんだと思う)に「煙草盆」が載っていて、
指さしで頼めばやってくれたのか?

でもこの髪型、8歳から12歳くらいの女児用なんだよね。
大人の女の人は髪結さんに結ってもらうだろうけど、
一般の家庭ではお母さんが娘の髪を結ってやるんだと思う。
髪型の名前としての「煙草盆」は家庭でも普通に通じたんだろうか。

裏当番が小さい頃、母に「今日は三つ編みにして」とか
「ダイアナにして(アニメ版『赤毛のアン』に登場する
ダイアナ・バリーの髪型。二つに分けて耳の横でみつあみにし、
それを輪にしてリボンをつけたスタイル)」と頼むと、忙しくない限り
その通りに結ってくれたものだが、明治のおませな女の子が
「お母ちゃん、髪の毛お煙草盆にしてぇ」と甘えて注文を出し、
それに母親が「あいよ、お煙草盆ね」と応じる図というのは
ちょっと想像しにくい。

「お千代、お花の髪型」の正しいイメージは獲得できたが、
また新たな疑問が増えてしまった。そして結局、
この髪型をした徳光和夫というのもうまく想像できない。
絵に描いてみようと思ったが挫折した。

まあ、お千代の髪型にした徳光和夫など見たくないから
描けなくてもいいけれど。本日の結論は、明治人の
髪型に対するネーミングセンスおそるべし、そしてやっぱり
森茉莉の悪口のセンスおそるべし、である。お粗末。

追記。

髪型としての「お煙草盆」、イラストこそついてないが
ウィキペディアにも載っていた。なんてこった。

なお、ウィキペディアによれば、納豆(違う)部分の両端ではなく
真ん中部分に子供向けの赤い鹿の子絞りの手絡を巻くそうだ。
あれ、それだったら時代劇で見かけたことがあるかもしれない。
思えば「神州一味噌」の「み子ちゃん」もこの髪型じゃないか?
ということは、み子ちゃんを思い浮かべて徳光の顔を貼り付けたのは
そう見当ちがいでもなかったということね。
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by ura_hoshimi | 2008-05-11 20:05 | 裏チーム入り乱れ