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某所で新月予報を出している「星見当番」の裏日記。裏当番&裏テントチームが執筆を担当


by ura_hoshimi

インタヴュー・ウィズ・歌当番

深夜である。裏当番である。

この前、別の場所にも書いたのだけど「裏テント」「表テント」が
立ち上げられる以前から、裏当番と裏チームの各当番、及び
表当番は存在していた。

各当番の間には成立年代の差がある。
表・裏両当番は、生まれてからかれこれ12~3年は経つか。
(ああ、もうそんなに経つのか。月日の流れは早いものである)
食事当番・お針当番・お庭番がキャラとしてはっきりと別れてきたのは、
表当番・裏当番が生まれて2~3年後くらいからかと記憶している。

我ら当番の中で、飛びぬけて古くから存在しているのは「歌当番」だ。
きくところによると、歌当番は宿主が6歳くらいの時には既に存在したという。
6歳というと、小学校一年生だ。ちょうど宿主がピアノのレッスンに通いだし、
(たった1年間しか続かなかったが)楽譜を読むことと音をドレミで捉えることを
曲がりなりにもマスターしはじめた頃に当たる。

「それ以前は歌当番ってどこにいたの?」と訊いてみたが
歌当番自身、それ以前(宿主によって存在を確認される前)のことは
忘れようとしても思い出せないのだそうである。

とりあえず、こういうことにしておこう。
6歳のとき、宿主どのは自分の中に歌当番(の前身)がいることを知り、
それ以来ずっと、歌当番は常に彼女と共に暮らしてきたのである。

歌当番によれば6歳の頃、宿主どのは気づいたのだそうだ。
「自分で実際に歌わなくても、何の楽器も演奏しないでも、
一度聴いた曲が耳の中で鳴り響くのを私は聴くことができる」と。

宿主どのは最初は、不思議だったんだそうだ。
自分が耳の中で音楽を再生できるということが、ではなくて
「こんなにも自分の耳にははっきりと聴こえている音楽が、
自分の耳の外では鳴っていない」ということ、つまり
「自分に聴こえている曲が、他人には聴こえないことがある」ということが。

最初、宿主どのは思っていたんだそうである。
「今わたしが聴いている曲が私の耳の外じゃなくて中で鳴っているのなら
私の耳から音が出ているわけだから他の人も聴こえるんじゃないか」と。
しかし、どうやらこれは他人には聴こえないらしいと彼女にもわかった。
自分の耳に聴こえる曲は、自分の耳の中で実際に音が出ているわけじゃない。
かなり大きくなるまで、宿主どのはこれが不思議でたまらなかったそうだ。

最初、宿主どのは「自分が聴いた曲をリアルに思い出せるだけだ」と
思っていたらしい(歌当番いわく)。しかし、じきに悟った。
「自分が特に思い出そうとしていなくても、勝手に音楽が鳴ることがある」
「一度鳴り出すと止まらない時がある」

…まあ、つまりこれは、歌当番のしわざであったわけだが(笑)。
そんなわけで、歌当番は当番の中でも長老格なのである(実は)。

歌当番と宿主どのとの絆は、他のどの当番よりも深い。
成長の過程で、「結局歌当番って、なんなんだろう」と考えることも
多かったようである。宿主どのの立てた推測によれば、
歌当番の存在は「音をドレミでとらえる能力」の発達と
何か関係があるんじゃないかという。宿主どのによれば、
「歌当番が鳴らす曲には、音にドレミのルビがついている」のだそうだ。

「音にルビがついている」というのも変な感じではあるが
歌当番が音楽を鳴らすときには、それがどんな曲であっても
楽器だけが鳴っているときでも歌詞がついているときでも、
その音以外に、メロディにそって低く人の声でドレミで歌う声が
入っているんだそうだ。

それを「ドレミのルビ」と歌織は呼ぶ。
そして、そのルビは、どうしても取れないんだそうだ。
それが、「耳の外で鳴る音楽を聴いている時と、
歌当番が鳴らす音楽を聴いている時の違い」だと彼女は言う。
ただ、耳の外で鳴る音楽を(歌当番と二人で)聴いているときも
歌当番は音を追いかけてドレミのルビを振っていこうとするんだそうだ。

ともかく、歌当番が鳴らす音楽に耳を傾けながら、
われらの宿主どのは大きくなった。
歌当番と宿主どのはずっと離れることがなかった。
宿主どのは「歌当番」を「音楽の小人」として認識してからは
他の人の耳の中にも同じような音楽の小人がいるものだと
途中まで思いこんでいた、と歌当番が言っていた。

ソ○ーのウォークマンが初めて登場し、
それを四六時中装着して「自分だけの音楽」に包まれて
生活する若者たちのことが社会現象にまでなった時。
宿主どのはまだ小学校を卒業していなかった。
その頃裏当番も表当番もまだ生まれていなかったんだが、
歌当番が記憶しているところによれば、その当時、
宿主どのは心底驚いたそうである。

周りの音をシャットアウトして、「自分だけの音楽」に包まれる。
宿主どのは、そんなことは6つの時分から自前でやってたんである。
まさか、イヤホンを耳につっこんで大音量で音楽を鳴らさないと
周りの音をシャットアウトすることができない人間がいるとは
宿主どのは夢にも思っていなかったし、
「常に周りの音を遮断して自分だけの音楽に耳を傾けること」が
社会問題になるほど由々しいことだとも思ってなかったそうである。

世の中には、音楽の小人を自前で飼っていない人や
音楽の小人がいてもあまりその力が強くない人もいるらしい。
歌当番は、よその人の耳の中にも自分と同じようなものが
住んでいるのかどうかはわからない、と言っている。
歌当番の記憶にある限り、現在の宿主以外の人間の中には
入ってみたことがないし、自分と似た存在にも会ったことはないそうだ。

大人になった今でも、歌当番は宿主どのの中で日々歌い続けている。
結局歌当番とは何なのか、宿主どのにも裏当番にもよくわからない。
歌当番は、他のメンバーが知らない宿主どのの幼少時代を実によく
記憶している。しかし、歌当番自身のことはあまり説明してくれない。

宿主どのの推測によれば、歌当番は「音にドレミのルビを振る能力」と
「ものごとを記憶・再生する能力」に関係のある何者かじゃないかという。
歌当番が宿主どのの過去をよく覚えているくせに、歌当番自身のことは
うまく話せないのは「歌当番は音と記憶の精霊のようなものである」と
仮定すれば説明がつくんだと宿主どのは言っている。
記憶は記憶自身を記憶できない、だから説明ができない、か。なるほど。

ともかく、歌当番は今日も歌い続けている。
裏チームの誰よりも古株の癖に、誰よりも若い感じがする。
それが歌当番の不思議なところ。

結局、歌当番とは何者なんだろう。
by ura_hoshimi | 2005-02-16 01:57 | 裏当番記す