森茉莉ツアー in 下北沢
2006年 06月 18日
先週の日曜日(6月11日)、『森茉莉ツアー in 下北沢』に行ってきた。
森茉莉街道を行く(+長谷川時雨)の管理人・ちわみさん主催。
去年までは森茉莉ドット文学館の白川宗道さんが主催されていたそうだが
憧れつつとうとう参加できないまま今年まで来てしまった。
白川氏が亡くなられ、もうこういうツアーは開かれないのだろうなと
思っていたところ、今年はちわみさんが主催なさるという。
喜び勇んで申し込んだ。
裏当番は森茉莉並みの出不精、その上方向音痴で
とても一人では下北沢を歩けない。その上住んでいる土地から
下北沢に出て行くのがこれまた時間がかかる。
しもきたに 行きたしと思へども しもきたは あまりにも遠し
それでも今より少しばかり行動力があった学生の頃、
下北沢の駅から森茉莉ゆかりの風景を求めて歩いてみたことがある。
よせばいいのに八月の一番暑い時期に決行し、迷子になった挙句
熱射病になりかけた。以来下北沢には行かず、森茉莉ゆかりの地へは
(この前出たちくま文庫の新刊ではないが)もっぱら「空想旅行」で
済ませていたのである。
そういう裏当番にとって、ツアーは天の救い的企画である。
下北沢近辺の道をよく知る人にくっついて歩けるし、
何より「ほかの森茉莉好き」の方とお話ができる貴重な機会。
裏当番、わくわくと当日を待った。
当日朝。クレープシフォンのひらっとした黒いスカートに
白にビーズ刺繍のカットソー、黒い七部袖のカーディガンを選ぶ。
足元は柔らかい革の白いサンダル。そして「森茉莉ツアー」なので
ひとつは森茉莉に因んだものを、「薔薇色の貝の首飾り」をつける。
以前、新宿オカダヤでちょうどいいパーツを見つけて自作したもの。
お針部屋に写真を載せている。
折悪しく前日からずっと雨である。
晴れたら、気に入りの黒地に銀糸でスカラップのある日傘を
さして行こうと思っていたのだが、やむなく普段使っている雨傘をさす。
十六本骨で、白地に桜色、オールドローズ、ピンクベージュ、サーモンピンクの
一円玉大の水玉が碁盤の上の碁石みたいに整然と並んでいる傘である。
裏当番はこの傘が好きで、これまでに同柄で水灰色系の水玉のも買っている
(525円という安値の割にえらく丈夫で色柄もいいのが揃っているのだ)。
さして歩きながら、好きだけど森茉莉的ではないなとちょっと残念に思う。
黒服・黒日傘で薔薇色の首飾りだけが彩り、という状態で行きたかったが
ピンクの水玉で一気にぶちこわしである。まあいいか。
待ち合わせ時刻は12時45分。場所は渋谷東急プラザ一階の花屋前。
ツアー参加予定者は裏当番を含めて6人。主催者のちわみさんを入れて7人。
お互い顔を知らずに集まる参加者のために、ちわみさんが目印の本を持って
(森茉莉の顔写真が表紙になっている『森茉莉 贅沢貧乏暮らし』)
集合場所に立っていてくださるという。
集合時間少し前に着いて、しばらく見回しているとそれらしき人を見つけた。
小脇に森茉莉本を抱えていて、参加者らしいもう一人の女性と話している。
近づいて行って「あの森茉莉の」と言いかけたら、名乗ってないのに即座に
「裏当番(仮名)さんですね」と言い当てられてぎゃっと驚く。なぜわかる!?
私何か、一目でそれとわかるようなオーラでも出してますか。
そういえば春に京都に行ったときも、やはり森茉莉好きのYさんに
待ち合わせ場所で「すぐにわかった」と言われたなあと思い出す。
訊いてみたら、「いや、掲示板(参加者の交流のため、事前に設置された)で
背が高いって書いてらしたから」と。…あ、なるほど。そういえば書いたっけ。
(正確には「縦横に大きい体に猫獅子の心を搭載している」と書いた)
頭のサイズも大きい(森鴎外もびっくりの実寸58cm、帽子だと60cm級)と
書いたので、もしや頭の大きさで見分けたのかもという疑念も残る(まさか;)。
ともかく、無事に落ち合えてよかったよかった。
お一人、参加予定の方が体調を崩してしまったということで
裏当番を含めて5人プラスちわみさんの6人でツアー出発。
渋谷駅からバスに乗って、代沢へ向かう。下北沢の駅から行くよりも
渋谷からバスで代沢へ向かい、そこを出発点にして下北沢へ向かう方が
初めて行く人にはわかりやすいのだそうだ。バスは比較的すいていて
皆で後ろの方の席を占拠して早くも森茉莉話をはじめる。
ちわみさんが用意してくださったコピー資料もバスの中でもらい
さっそく眺める。メンバーは皆穏やかそうな雰囲気の女性で
話しやすくてとても助かった。
代沢でバスを降りる。雨の中をぴしゃぴしゃ歩いていく。
まず目指すは「代沢ハウス」である。まだあるんだ!と驚きの裏当番。
勿論、途中で建て換えたりしたのかもしれないけれど、本当に
ここに住んでいたんだなあ。おおちゃんと「代沢ハウス」と書かれている。
記念にプレートを撮影。雨だったので、画像が暗い。
建物本体は、白と赤みがかった薄い茶色(森茉莉なら代赭色と言うだろう)の
二色のタイル壁である。想像していたよりも大きく四角い建物だったのに驚く。
一応傘ごしに外壁を見上げて撮影したのだが、面白みのない写真なので
割愛する。ここで小火騒ぎを起こして(ゴキブリ退治にリグロインを使ったため)
それで最後の住居であるフミハウスに移ることになったんだっけ。
当時同じ建物に住んでいた人で、今でも残っている人は居るんだろうか。
恐るべきことに(何が恐るべきなのかよくわからないが)
代沢ハウスは6月11日現在「入居者募集中」であった。
「誰か住んでみます?」などと言い合いつつ貼紙を撮影。
私は、うーん、森茉莉ゆかりの「代沢ハウス」だからといって
住みたいとまでは思わない。邪宗門が近いのは魅力的だけれど。
次に、代沢ハウスの前に森茉莉が住んでいた「倉運荘」へ向かう。
『贅沢貧乏』や『貧乏サヴァラン』で「白雲荘」の名前で登場した
ボロアパートである。こちらも、建て直しはしたものの同じ場所に今もある。
音は「そううんそう」だが漢字は「創運荘」である。本来はこの字なのだが
森茉莉は「倉運荘」という風に書くのを好んでいたらしい(初めて知った)。
ご覧の通り、今はアパートではなく「創運マンション」という名である。
『贅沢貧乏』時代は木造アパートであったが、さすがに今はそうではない。
もっとも「マンション」と言われると「マンション?」と首を捻ってしまうが…
写真だけでは何が何だかわからない感じの、創運マンション外観(の一部)。
雨の中、傘をさしながらの撮影なのでろくなアングルのものがない。
建物を見上げて撮るより、脇の植え込みを撮影してくればよかったな。
青木やヤツデなんか、昭和っぽい香りのする庭木が植えてあって
その陰に今でも黒猫ジュリエットがしゃがんでそうな雰囲気だったから。
そこの物陰だけが、唯一贅沢貧乏的光景だった。
その後、森茉莉が住んでいた頃には魚屋であったというお店
(現在はお寿司屋さんになっている)の前を通ったり、
「馬込屋」というお店(『貧乏サヴァラン』で「近所の馬込屋が
早々とダイヤ氷を売るのをやめたためである」という形で
間接的に登場する食料品店)があった場所を見に行ったりする。
銭湯「代沢湯」の跡地へも行った。
つい去年まで現役の銭湯として営業していたそうだ。
今は、駐車場にするということで銭湯の建物は取り壊され
赤土がむき出しになっていてロープが張られている。
しばし、代沢湯跡地で「銭湯と森茉莉」について話が弾む。
「『勿論目はつぶるのである』とかね!」だの「上等の石鹸泡立てて」だの
「脱衣所でラオコオン、いやラオコオンは洗濯のときの話か」
「銭湯は『大鵬が女の人のスリップを着るときのような格好で
踊りを踊らなければ着られない』ですよ」だの。
雨の日に、女六人が傘さして銭湯の跡地で森茉莉談義。
天候のせいか、他に通る人とてなかったけれど
もし地元の人が通りかかったら一体どう思われたことやら。
森茉莉が「穴のあいたスウェータア類」を捨てに行ったという川にも行った。
イメージしていたよりも川の幅が狭い。なんでも、この川は一旦埋められて
(埋め立て、ではなく蓋をして地面の下を流れるようにした「暗渠」ですな)
近年になって再び川底を整備して水がその上を流れるようにし、
周りに桜の木などを植えて遊歩道にしたのだという。
覗き込んでみると、なるほどそう深くはなくコンクリの川底が見える。
川というより「水路」である。いまセーターを放り込んでも
全部沈みきる前に底につくだろう。しかしこんな人工的な環境でも
生き物はいるらしい。地元の小学生が雨の中ザリガニ釣りをしていた。
「ザリガニもいるし、鯉から何から居る。」とはその少年の弁。
いまどきの小学生と話すのは久しぶりだが「鯉から何から」という
その言い回しが妙に昔っぽくてちょっと笑いたくなった(しかし我慢する)。
なお、森茉莉といえば「夜中にこっそりと川に衣類を捨てに行った」であるが
当時この川には近隣の人が結構色々なものを捨てていたそうで
この件に限っては、森茉莉がエキセントリックだったわけではないという。
橋の上で、川を撮影する参加者たち。主催者のちわみさんは
「初めて来られた方はたいてい皆この川の写真を撮るんですよ」と
笑っておられた。
ここまでで数十分ほどだったと思う。
その後、森茉莉が入り浸っていた喫茶店「邪宗門」へ向かう。
一度は行ってみたかった場所、むろん裏当番は初めて行く。
(学生時代に下北沢駅から歩いた時は辿り着けなかったのだ)
ところで裏当番は、森茉莉好きを公言しているにもかかわらず
三回に一回くらいの割で「邪宗門」を「羅生門」と言いまつがう。
「門」しか合っていない。
森茉莉関連本などで、邪宗門内部の写真は見たことがあるが
外観などは全く知らなかった。「邪宗門」なんていう名前だから
外から見た雰囲気なんかも怖い感じなのかと思っていた。
見れば小ぢんまりとした、かわいらしくさえある店構えである。
魔法使いのおばあさんが一人暮らしをしている家っぽくもある。
入り口傍の、楓らしい木の赤い若葉がかわいかった。
長くなってきたので、お店に入ってからのことは次回。