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某所で新月予報を出している「星見当番」の裏日記。裏当番&裏テントチームが執筆を担当


by ura_hoshimi

パッパの呪い

【裏当番記す】

宿主どの、急な発熱でダウン。
顔の大きさの割に狭い額に「冷えピタ子供用」を貼って寝たら
(大人用を貼ると額からはみだして髪にくっつくのである)
朝起きた時ジェル部分がすっかり乾燥してカピカピになっていた。
結構凄い熱であったようだ。熱があるだけで、喉や鼻は無事なんだけど。

今日は昼頃に起き出したものの、文字を読んでも頭に入らず
ブログを更新する気力も針を持つ気力も湧かず、
うかない顔で一日を過ごす。表当番も裏チームも活動不能。
回復には時間がかかりそうである。

さて表題の件。

表テントの話になってしまうが、今月は新月が二回ある。
一回目は12月2日の午前0時01分からの射手座新月。
二回目は大晦日・12月31日の12時14分からの山羊座新月。

表当番は最近、12サインのブックガイドに凝っている。
新月予報に合わせて月一回各サインにちなんだ本を紹介するのだが
次に書くのは「山羊座のブックガイド」である。で、今日は回らない頭で
山羊座のブックガイドに出す本や作家のことをぼんやり考えていた。

表当番としても裏当番としても、「山羊座の作家」といったら
「あの親子」は外せない、ということで意見は一致している。
お父さんが山羊座なのはすごく納得。だってすごく土星だから。
(「お父さん」と占星術両方を知らない人にとっては意味不明の一節)

お嬢さんも山羊座、と知った時は思わずのけぞった。確か数年前の話。
こだわりの強さや入り組んだ文章、動作のゆっくりさ加減からして
「この人、もしや『固定サイン』では?」と思っていたのだ。
(ちなみに最初に彼女のサインとして想定していたのは水瓶座である。
水瓶座は風の固定サイン。同じ固定サインでも獅子座の雰囲気ではないし、
牡牛座だと悪い冗談にしかならない。牟礼モイラは愛の肉食獣だけど、
愛の反芻動物というのは困る)

「あの親子」とは、父・森鴎外と、その長女・森茉莉。
表当番と裏チームのお気に入りは長女の方で、
森鴎外の作品は高校の時に読んだきりである。
表当番と我ら裏チームにとって「森茉莉は森鴎外の娘」ではなく
「森鴎外は森茉莉のパパ」なのだ。森茉莉式に表記するならば
「パパ」ではなく「パッパ」である。

その「パッパ」について。
裏当番は森茉莉の作品を愛するあまり、ほぼ全ての文言を
「鵜呑みにしてぬうと育っ」てきたのであるが、一点だけ、
どうにも呑み込めないことがある。それは「パッパの容姿について」。

「パッパ」鴎外は娘の「お茉莉」を大変可愛がり、何かにつけて
「上等、上等、お茉莉は上等」と褒めて育てたようだ。
娘の方からの「パッパ賛美」も凄い。パッパの頭脳から容姿まで
上等でかっこよくて美しくて、痰を吐く音まで「独逸語の喉の音みたい」で
素敵であったのだとあちらこちらで書いている。

パッパが「当代一の頭脳を持つ男」だったというのは、まあいいとして。
容貌に関しては指先が清潔で美しいとか唇のうねり具合がかっこよいとか
書いてあったのが印象に残っている。その文章だけをずっと読んでいると
裏当番の頭の中にはそれはそれは渋かっこよく美しい「父・森鴎外」像が
浮かんできてしまうのだ。裏当番の個人的な好みで言うと津川雅彦とか
仲代達矢とかのような(仲代達矢だとちょっと可愛らしすぎるかもしれない)。

で。そういう頭で実際の森鴎外の写真を見ると「んんん~?」と思うのだ。

「パッパ…美しい、か?」
あれはやはり、親の欲目ならぬ娘の欲目なのかなあ。

娘の目に写った「美しくかっこよい父」は、
佇まいやディテールの美しさだったのかもしれないのだけど、
ネット検索や本に載っているので見られる森鴎外の写真は
ほとんど胸から上のアップで、また横向きの顔写真が多く、
「清潔で美しい指先」は写っていないし、「かっこよくうねった口元」は
カイゼル髭に隠れて見えない。

今日は、イメージ検索で「パッパ」の画像を探してみた。
ほとんどが和服を着て横顔で写っているものばかりだったけど
一枚だけかなり若い、軍服を着て正面を向いている鴎外の画像があった。
他の写真と違って、黒い髪をなでつけたみたいな頭をしている。
お髭もきっちりとセットしてある。あれは何か塗って固めていたのかな。
幼い「お茉莉」が見ていた「軍服の父」はこのくらいの若さだったのだろうか。

その写真は、他の横顔の鴎外に比べたらかっこよかった。
しかしそれを見ながら裏当番が思ったのは
「この『サリーちゃんのパパ』みたいなのが、
『かっこよくて素敵なパッパ』なのか…?」で、あった(爆)。
たしかにカイゼル皇帝みたいでは、あるけれど。

一度鴎外のことを「サリーちゃんのパパ」だと思ってしまうと
そのイメージが抜けなくなってしまった。あの髭のせいだ。
とばっちりで『甘い蜜の部屋』の牟礼林作のことも
「サリーちゃんのパパ」でしかイメージできなくなってしまった。

幼い娘を膝に乗せ、髪を撫でてやりながら
「お茉莉は上等、お茉莉は上等」と囁く「サリーちゃんのパパ」。
座敷に盥と競馬石鹸を並べ、葉隠武士の切腹のごとき手順で
身体を拭き清める「サリーちゃんのパパ」。
文豪のイメージ台無しである。ごめんパッパ。

裏当番は「パッパ美男説」に納得できないだけであって、
決して「パッパ鴎外」が嫌いなわけではない。念のため。
もっとも、『舞姫』の主人公・太田豊太郎は嫌いで、ある(森茉莉調)。

鴎外の子供たちがそれぞれ書いた父・鴎外像を読むのはかなり好きだ。
子供たちの目から見た鴎外像でお気に入りなのは於兎(おと・長男)だったか
類(るい・次男で末っ子)だったかが書いていたエピソードで(あ、類の方かな)
次女の杏奴(あんぬ・類のすぐ上の姉)のことを「アンヌ子」と、
次男・類のことを「ボンチ子」という愛称で呼んでいた、というものだ。
類は、真似して父を「パッパ子」と呼ぶこともあったという。

「ボンチ子よ パッパ子ボンチ子よ」「パッパ子よ ボンチ子パッパ子よ」
…というおかしな呼びかけあいを文豪とその息子が展開する箇所があって、
裏当番にとって百鬼園先生の「ノラやお前か、さうやって(以下略)」に
匹敵する笑い所である。

問題は。「鴎外サリーちゃんのパパ説」に頭を侵食され、
魔王な鴎外と、王妃様な志計さんに見送られて
黒猫ジュリエットを従えた森茉莉がホウキに乗って飛んでいく映像が
頭の中に浮かんでしまうことで、ある。

まほう~のくに~からやってきた
ちょっと~チャ~ム~な おん~なのこ
マリィ~ マリィ~♪

パッパの呪いである。誰かたすけて。

この件はこれでおしまいなのであるが、森茉莉の「美男の描写」で
もう一つ首を捻っている件があったのを思い出した。
これまた非常にハンサムであったと書いている「矢田部達郎」のこと。
誰だったか、女性相手の対談で森茉莉は彼の容貌を評して
「髭が濃くって剃り跡が青くて当麻蹴速って感じで」と言っている。

「当麻蹴速(たいまのけはや)」って…日本書紀に出てくる
「はじめて相撲をとった力持ちの人」ですが…?
文豪を父に持つ明治生まれのご令嬢であることを考慮しても、
当麻蹴速って、美男子の形容としてアリなのだろうか?

他に、矢田部の容貌を「メフィストフェレスのような」とも言っていた
記憶があるので、髭が濃くて剃り跡が青いということを考え合わせると
ダークで男臭い感じの美男であったのだろうか…。セクシー?

ちなみに、当麻蹴速の対戦相手は野見宿禰(のみのすくね)で、
この対戦で蹴速さんは敗退している。
フランスで粋な恋愛場面を見せ付けるメフィストフェレス氏の
容貌を形容する言葉としては、ううむ、かなり微妙だと思うが如何。

対談相手は、この「当麻蹴速って感じで」発言はスルーしていたけど
21世紀の読者で、あれを読んで「その形容ってどうなの!?」と
ツッコみたくなったのは裏当番だけではないと思うのだけど。
いや、それとも今は「当麻蹴速」がわからない人の方が多いのか。
でも森茉莉を読む人だったら知っている人も多そうだ。

裏当番は、矢田部達郎がどんな顔をしていたか知らないので
写真があったら是非見てみたいものだと思っている。
by ura_hoshimi | 2005-12-04 23:16 | 裏当番記す